PROJECT STORY03

寿命の限界を超え、用途を広げる。
次代を担う工具材種開発を託された
若手技術者二名の挑戦。

PROJECT MEMBER

(所属部署・役職、インタビュー内容は当時のものです)

SECTION01

業界ポジションをより高めるために
新プロジェクトが発足。

金属加工用の切削工具は新素材の開発により日々進化を続けている。注目されている素材の一つが、「cBN」だ。ホウ素と窒素からつくられる人工素材のcBNは、ダイヤモンドに次ぐ硬さで、耐熱性にも優れている。この特性から、自動車部品や各種機械向け精密部品に使用される高硬度鋼の表面を仕上げる工具材料として、主に使用されている。三菱マテリアルは、このCBN工具の開発と製造をリードする企業の1社として、確固たる地位を築いている。そのポジションをさらに高めることを目指したCBN工具材料の新材種開発プロジェクトが2019年4月に立ち上がった。中心メンバーとしてアサインされたのは、入社3年目のN.Sと、2年目のH.Mである。

N.Sは入社以来、プロセスエンジニアスタッフとしてCBN工具の製造に関わってきた。だが、これまで携わってきたのは、既存材種の品質向上が中心で、新材種の立ち上げは今回が初めての挑戦となった。「新材種の製造・量産を担当するためには、当然新しい技術の習得が必要になることが脳裏に浮かびました」と、N.S。「とはいえ、基本になるのは、これまで培ってきたCBN工具の生産技術です。新しい経験を楽しむ気持ちでプロジェクトに参加しました」と、当時の心境を振り返る。
H.Mは入社後1年間筑波製作所に勤務し、切削工具に関する知識習得に従事。岐阜製作所には4月に異動してきたばかりで、最初に任されたのが、この新材種開発の主担当だった。CBN工具の知識習得からスタートするにもかかわらず、三菱マテリアルの次世代を担う主力製品開発という重責を全うできるのか。大きな不安があった一方で、「着任してすぐに大きな仕事を任せてもらえたことに身震いしました」とH.Mはアサインされたときの想いを口にした。

SECTION02

一難去ってまた一難。
迫る開発のデッドライン。

プロジェクトが掲げたテーマは、「高硬度鋼加工用CBN工具新材種の材料開発と量産化」。具体的なゴールは、これまでにない「長寿命化」と「対応切削領域の拡大」だ。CBN工具は高硬度鋼という非常に硬い材料を切削加工するため、摩耗が激しく、工具寿命には限界がある。月に数百個単位で使用するユーザーも多く、長寿命化はユーザーから寄せられる切実な要望だった。また、CBN工具は材種ごとに対応する切削加工条件が異なる。そのため、一つの部品加工に複数の加工条件が混在している場合、各条件に対応する材種のCBN工具に交換する必要がある。つまり、一つのCBN材種で幅広い切削領域に対応できれば交換の必要がなくなり、ユーザーの使い勝手は大幅に向上する。
H.Mはさらなる長寿命化と対応領域拡大の目標値クリアに向け、まず材種開発の最新技術と成果、先輩たちの試行錯誤の記録を確認した。そのうえで耐熱性、耐摩耗性、耐欠損性などを高めるアプローチを一つずつ試しながら、目標値クリアの可能性がある材種の取捨選択を進めていった。その結果、単に寿命を伸ばすこと、対応領域を拡大することは達成できたものの、トレードオフ関係であるこの二つの目標を同時にクリアすることは想像以上に難しかった。「突破口はないか」H.Mは発想を転換し、アプローチの変更を試みた。「詳しくはお話できないのですが、新たな発想がブレイクスルーとなり、長寿命化と対応切削領域拡大を同時に実現する別のアプローチを見つけ出すことに成功しました」(H.M)。

H.Mの成果を受け、N.Sは製品化への取り組みを本格化する。新たな開発アプローチを製造に反映するために必要な新技術を次々に習得し、新材種の製造プロセスを着実に構築していった。しかし、最終工程を目前にした量産確認の段階で、量産の再現性が担保できない事象に直面する。「プロジェクトが終盤を迎えていた時期で、スケジュールに余裕はなく、本当に焦りました」というN.S。不具合の解消に向けH.Mに協力を仰ぎ、二人で製造工程における問題点を追究したものの、答えは見つからなかった。そこで普段は行わない開発データにまでさかのぼってのデータ解析に取り組んだ結果、製造方法による再現性の不具合だけではなく、切削性能のバラつきに悪影響を及ぼす素材要因があることも突き止めた。N.Sは解明した要因を反映し、製造の条件設定を変更。これによって不具合は解消され、プロジェクトはCBN工具新材種の量産化へと移行した。「計画していた製品発売までに残された時間はわずかでしたが、デッドラインギリギリにクリアでき、ほっと胸をなでおろしました」と、N.Sは当時を振り返る。

SECTION03

導入したユーザーの声から
ものづくりへの貢献を実感。

量産工程の課題をクリアし、プロジェクトが次に取り組んだのはユーザー評価だ。取引実績のあるCBN工具ユーザーに新材種の試作品を実際に使ってもらい、長寿命化と対応切削領域の拡大に関する評価を依頼する。三菱の既存材種ユーザーはもちろん、他社のCBN材種を使用しているユーザーも含めさまざまなユーザーに新材種を試してもらい、製品の価値が評価されて初めて、新製品として市場に投入することが可能となる。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で実施が予定より遅れたものの、ユーザー評価については順調に実施することができた。
2021年6月30日、三菱マテリアルは高硬度鋼加工用CBN工具の新材種発売を公式に発表した。
「無事に発売日を迎えたことが、今回のプロジェクトで最も嬉しかった瞬間ですね」とN.Sは喜びを隠さない。また、この発売を受け、ユーザー評価を実施した1社が、いち早く新材種の導入を決定、その後、「寿命が延びたことで、工具の交換頻度が減って作業効率が大幅にアップ、工具費の低減にもつながりました」とのコメントが寄せられた。この評価を聞き、「目指した性能が実現できたことに加えて、お客様のものづくりに貢献できたことが何よりも嬉しいですね」とH.M。さらに、「プロジェクトの試行錯誤の過程から、新たな性能を導き出す方法を見つけ出すこともできたので、その技術を高めて次世代材種の開発に活かしたいと考えています」と、思い描く次の展開を示した。

N.Sは引き続き、プロセスエンジニアスタッフとして今回手掛けた新材種の良品率の向上に取り組んでいる。そこで活かしたいと考えているのが、プロジェクトを通じて獲得した人的ネットワークだ。「多くの部署の方々との協働で広がった人脈を通じて新製法や新装置の情報を得ることで、今回の新材種はもちろん、CBN工具全体のさらなる品質の向上と安定に取り組んでいきたい」と、今後の抱負を語った。
CBN工具への期待はまだまだ高まり続けている。二人の新たなチャレンジは今後も新たな成果を生み出し、金属加工を中心とするものづくりに貢献することだろう。

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