PROJECT STORY06

地下の「暴れん坊」を掘り当て
クリーンエネルギーを未来へ。

PROJECT MEMBER

(所属部署・役職、インタビュー内容は当時のものです)

SECTION01

7本の井戸を掘削し、
14,900kWの安定供給を目指す。

天候に左右されることなく、CO2排出量を抑制しながら電力を安定供給できる。こうした特長から地熱発電は近年、注目を集めている再生可能エネルギーの一つだ。三菱マテリアルは、グループ力を結集しておよそ50年にわたる地熱開発・発電事業に取り組み、発電量の拡大に取り組んできた。その最新プロジェクトがいま、岩手県で進めている『安比地熱発電所プロジェクト』である。三菱マテリアルをはじめとする3社の共同出資で設立した安比地熱株式会社の管理運営により、2024年度に安比地熱発電所の運転を開始し、14,900kWの出力(一般家庭約3.6万世帯分を賄う電力、安比地熱発電所の位置する岩手県八幡平市の世帯数は1.1万世帯)を予定している。
A.Tが掘削部門のリーダーとしてプロジェクト参加の打診を受けたのは、10年間の海外勤務を終え、本社で澄川地熱発電所(秋田県鹿角市)の操業サポートに携わっていた2019年のこと。入社以来、キャリアの半分以上を地熱事業と共に歩んできたA.Tにとって、新たな任務は、とても魅力的なものだった。地熱発電は、地下にある約300℃の地熱貯留層より地熱流体を取り出し、そこから分離した蒸気を用いてタービンを回して発電する。そのために、生産井(蒸気を取り出す井戸)と還元井(蒸気復水や熱水を地下に戻す井戸)を掘るのだが、安比地熱発電所では合計7本の井戸を掘削することが計画されていた。

「掘削工事は緊張感のある大変な仕事ですが、やり遂げた時の喜びはとてつもなく大きいものです。それをリーダーとして7本も掘れると聞いた時は、新たな挑戦への興奮と期待で頭の中がいっぱいになりました」(A.T)。
着工した2019年8月からしばらくは、本社と現場を行き来しながら掘削工事の内容とスケジュールを検討。最も時間を費やしたテーマは、安全・品質・工程・コストを最適な状態で管理しながら、いかに7本の井戸掘削を成功へ導くか、ということだった。2020年8月からは、ほぼ現場に常駐。掘削部門のリーダーとして掘削会社の方々はもちろん、同時に工事を行う土木・建築・蒸気設備・発電設備といった各部門のリーダーと連携しながら、工事計画の具体化に取り組んだ。

SECTION02

「暴れん坊」第2号生産井を
掘り当てる。

掘削工事の実施が約半年後に迫った2020年11月、プロジェクトに衝撃が走った。澄川地熱発電所など、これまで他県での実績がある掘削機への燃料供給方法が、地元消防署に認められなかったのだ。このままでは、掘削工法の見直しが必要になり、コストも大幅に増加してしまう。この解決にあたったのが、当時入社5年目のS.Gだ。入社2年目からA.Tのもとで、澄川地熱発電所の蒸気設備管理を主に担当。2020年から安比地熱株式会社の所属となり、プロジェクトに参加していた。
「掘削工事の現場監督員から発電所完成後の操業まで、地熱発電関連の幅広い業務を経験して多くのことを学べるチャンスに、喜び勇んで参加しました」(S.G)。
消防関連の手続きを初めて担当したS.Gは、経験豊富なA.Tのアドバイスをもとに、消防署の見解をしっかりと理解するため足繁く通い、協議の場を持った。問題点を把握すると、発電機メーカーや掘削会社とディスカッションし、最適な燃料供給方法を検討した。その姿を見ていたA.Tは、「消防署に対しても、メーカーや掘削会社に対しても、迅速かつ的確な対応でした。誠実な姿勢で相手の意見を聞きながら、自らの意見もしっかり主張する。誰もが信頼し合って納得できるポイントを見つけ出してくれると期待できたので、安心して任せていました」と振り返る。
3ヵ月後、改めて提出した燃料供給方法に消防署の認可が下り、届出が無事完了。工事の見直しもコスト増も回避することができたのであった。

2021年7月、プロジェクトはその後を左右する最大の局面を迎えた。事前調査で最高出力の蒸気が期待されていた第2号生産井の掘削工事が、最終段階に入ったのだ。掘削工事は、地下2,000m付近にある地熱貯留層の亀裂を目指して掘っていく。調査・試験データや掘削機から収集した掘削の方向・傾斜データをもとに掘り進めていくのだが、地下の見えないところで作業を行う難しさがある。この状況を突破すべくS.Gをはじめとする若手技術者たちが取り組み、各種データを利用したモデリングで地下の様子の可視化に挑んだ。最新のシミュレーションツールを使って掘削方向を明示し、地熱貯留層の亀裂に当たると予測した日を、いよいよ迎えることになった。
当日の早朝、現場監督員を務めていたS.Gに電話した時のことを鮮明に覚えているというA.T。耳にしたのは、「当たりました!」という待望の第一声だった。「当たった瞬間の喜びは、忘れることができません」とS.Gは声を震わせる。
プロジェクトが成功に一歩近づいたことを関係者全員が確信した時、A.Tは次の課題を見据えていた。次の工程では、第2号生産井の地上側の装置に取り付けていた掘削作業用のバルブを仕上用バルブに交換する作業が予定されていた。しかし第2号生産井は勢力があまりにも強い“暴れん坊”だったため、どの様にして地下の高い圧力を封じ込めるバルブを交換するか、頭を悩ましていたのだ。最優先すべきことは、作業の安全性である。過去の事例を参考に関係者と協議し、通常は1台しか使わない交換用重機を2台準備。圧力を低下させるテストを何回も繰り返し、安全な作業工程を確認した。結果的に安全に交換を終えることができたのは、経験豊かなA.Tらの知見を活かし、万全の体制を整えたからだった。

SECTION03

発電所完成の先にある
二人の想い。

2022年、掘削部門は最終工程に挑む。目指すのは、第3号、第4号という残り2本の生産井掘削を完了させることだ。だが、そこにはこれまでにない難関が待ち構えている。この2本を掘削する地層は、井戸を掘った実績が全くないエリア。調査データはあるものの、2021年に掘り終えた第1号、第2号に比べると情報は圧倒的に少ない。モデリングとシミュレーションによる正確な予測を行うためにも、これから多くのデータを収集する必要がある。課題を一つひとつ明らかにし、完璧な対策を導き出し、計画通りに井戸を無事故で掘り終えることが、掘削部門のミッションだ。
全ての工事を無事に終え、2024年1月から実施する試運転では、あらゆる機器と工程の調整を行い、安定操業への筋道を導き出す。試運転に向け、肝に銘じていることがA.Tにはある。「頭の中にあるのは、次世代の育成です。調整の主役は若手にバトンタッチし、私はサポート役に徹する。これにより、数年後にリーダーとして活躍できる人材を育てたいと考えています」。この話を受け、ぜひその期待に応えたいとS.Gも応じる。「発電業務に携わるのは初めてですが、できることが増えるのは楽しいですし、モチベーションアップにもつながります。A.Tさんを目標に、関連する知識や現場ノウハウの習得に努めたいと思います」。

試運転の成功、安定操業の先に、もう一つ実現したいことがあるとS.Gは語る。それは、発電時の熱を有効利用して地域の発展に貢献できる地熱の有効活用法を見つけ出すことだ。
一方、リーダーのA.Tが見据えているのは、若手のチャレンジをサポートしながら、次の開発に取り組むこと。三菱マテリアルはいま、再生可能エネルギー開発強化の姿勢を前面に打ち出している。地熱だけにこだわることなく、広く開発に取り組むことで、二人(A.T, S.G)は会社と自らの可能性を広げようとしている。

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