プレスリリース

2017年5月24日

省エネ効果を高める高精度温度計測システムを開発
〜 セメント製造用実物キルンで検証、誤差±25℃範囲内の大幅な精度向上に成功 〜

NEDOプロジェクトにおいて、三菱マテリアル株式会社(取締役社長:竹内 章、資本金:1,194億円、以下「三菱マテリアル(株)」)と株式会社チノー(代表取締役社長:苅谷 嵩夫、資本金:43億円、以下「(株)チノー」)は、セメントロータリーキルン(回転式窯)内の過度な熱エネルギー使用を低減し、省エネルギー効果を高める高精度温度計測システムを開発しました。
このシステムを実物キルン内で検証した結果、従来の温度計測では誤差-150〜-60℃程度だったのに対し、ほぼ±25℃範囲内での計測が可能となり、大幅な精度向上に成功しました。
この成果は2017年5月29日〜31日開催のセメント技術大会で発表します。

1.概要

日本のセメント製造業は世界的には最も省エネルギーが進んでいますが、地球温暖化に対する社会的要請からさらなる省エネルギーが求められています。既存技術による省エネルギーはほぼ限界に達しているため、新たな省エネルギー技術の開発が必要です。セメント製造設備のロータリーキルン※1内で焼成されたクリンカ※2の温度は、放射温度計※3を用いて測定されていますが、クリンカの微粒分によるダストが光のエネルギーを散乱、吸収、放射することが障害となり、測定精度が低いという問題がありました。そこで、クリンカを適正な温度に保つことで、石炭等から得られる熱エネルギーの過度な使用を抑制し、省エネルギーにつながる、より高精度な温度計測技術が求められていました。
NEDOプロジェクトにおいて、三菱マテリアル株式会社と株式会社チノーは、クリンカの省エネルギー焼成を確実なものとするため、高ダスト濃度環境下のセメントロータリーキルン内で温度計測できる高精度計測システムを開発しました。このシステムを実物のキルンでも検証した結果、従来技術の放射温度計で誤差-150〜-60℃程度に対し、ほぼ±25℃範囲内の計測が可能になり、大幅な精度向上に成功しました。今回開発した高精度温度計測システムは、セメント製造プロセスで最もエネルギーを消費するクリンカの焼成工程における熱エネルギーの使用量の低減に寄与するとともに、今後に実用化が期待されている鉱化剤を用いたクリンカの低温焼成技術※4の実現にも欠かせないシステムになると考えられ、また、セメント製造プロセスだけでなく、ダストが存在する各種工業炉等での温度計測にも適用が期待されます。三菱マテリアル(株)と(株)チノーは、今後、本システムの計測精度、信頼性、耐久性を高め、2020年度に製品化を予定しています。なお、この成果は三菱マテリアル(株)と共同研究先である国立大学法人岐阜大学が2017年5月30日のセメント技術大会※5で発表します。

2.今回の成果

高精度温度計測システムでは、新たに開発した2台の高性能放射温度計(図2)を使用し、キルン出口のクリンカ温度を測定するとともに、それに近い落口金物※6の温度を測定(図3)、得られた2つの温度からクリンカ温度を算出する新アルゴリズム(ダストキャンセル法、図4)を採用しました。本システムの開発にあたり、三菱マテリアル(株)は、温度測定位置の最適化、温度算出モデルの高精度化、計測システムの耐久性の検証を行いました。同社の共同研究先である岐阜大学は、温度算出モデルに必要なダストによる光の減衰の測定を担当しました。(株)チノーは、指向性の高い高性能放射温度計の開発およびデータ収集・演算システムの開発を行いました。

このシステムを実物のキルンでも検証した結果、従来の放射温度計の計測誤差が-150〜-60℃程度であったのに対し、本システムの計測誤差は、ほぼ±25℃範囲内となり大きく精度を向上(図5)することに成功しました。

図1 高精度温度計測システムの概略図 高精度温度計測システムの概略図 (画像をクリックして拡大イメージを表示)
図2 設置された2台の放射温度計 設置された2台の放射温度計 (画像をクリックして拡大イメージを表示)
図3 放射温度計設置場所より見た
キルン出口のクリンカ、落口金物と測定位置
クリンカと落口金物 (画像をクリックして拡大イメージを表示)
図4 クリンカ温度計測の原理(ダストキャンセル法) クリンカ温度計測の原理(ダストキャンセル法) (画像をクリックして拡大イメージを表示)
図5 温度計測値の比較 温度計測値の比較 (画像をクリックして拡大イメージを表示)

【用語解説】

※1.
ロータリーキルン
回転式の連続高温焼成装置。緩傾斜を付けた「耐火煉瓦で内張りされた鋼管容器」の上方から原料、下方からバーナー炎を導入する。原料は自重と回転運動によりゆっくりと下方に移動しながら焼成される。
※2.
クリンカ
石灰石、粘土、珪石、鉄原料等の原料を、キルンで焼成してできる大きさ数センチメートルの塊状物質。石こうと共に粉砕してセメントが製造される。
※3.
放射温度計
物体から放射される温度に応じた光のエネルギーを受光し、温度に換算する測定器。
※4.
鉱化剤を用いたクリンカの低温焼成技術
鉱化剤(フッ素および三酸化硫黄)を添加することで、クリンカの焼成温度を100℃程度低減する技術。2.6%程度の省エネルギーが期待される。2010年から2014年に実施された経済産業省の補助事業「革新的セメント製造プロセス基盤技術開発」において開発が行われた。低温焼成ではクリンカ粒子が小さくなることで、ダストがより多く発生し、測定精度の低下が懸念されている。
※5.
セメント技術大会
毎年5月に東京で開催されるセメント・コンクリートの技術的・学術的研究発表会で、例年約160件の研究発表がある。研究発表の内容は、セメント化学、建築、土木分野と多岐にわたり、約700名の研究者が参集し、活発な質疑応答が行われる。
http://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/ji1a.html
※6.
落口金物
キルン出口の外周に耐火レンガを固定するために設置される構造体。
※7.
スポット測定
耐熱対策を施した放射温度計をクリンカに約50cmに近づけることで真値に近い温度を測定できる。ただし、耐熱、耐衝撃の点から、測定可能な時間は短い。

以上

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