PROJECT STORY03

進化を続ける航空機産業とともに
発展していくために。
ダイヤモンドコーティング開発で、
新たな加工技術を確立する。

PROJECT MEMBER

SECTION01

需要が高まる航空機向け新素材の切削加工技術。
ダイヤモンドコーティング開発に再び挑む。

2010年頃から、急速に需要が高まりつつある新素材CFRP(炭素繊維強化プラスチック)。アルミよりも軽く、鉄より強いといった特性からジェット旅客機の主要構造部材として多く採用されており、いまや航空機を構成する上で欠かせない素材だ。しかし、CFRPは既存素材に比べ切削加工が難しく、航空機産業界では、長寿命かつ高精度に加工できる切削工具の需要が高まっている。当社の加工事業カンパニーにとって、航空機産業でシェアを拡大することは重点戦略のひとつ。当然のように、このCFRP加工に最適な工具を開発することは至上命題になっていた。そこで真っ先に取り組まれたのが、CFRP加工用CVDダイヤモンドコーティングの開発。このコーティングを切削工具に施すことで、切削加工が難しいといわれるCFRPでも、高品位で高精度な加工が容易になると考えられたからだ。実はこのCVDダイヤモンドコーティング、1980年代に一度開発が進められており、それを被覆した工具の製品化も実現していた。ただ、当時は最先端製品を必須とする市場は開花前で、他社に先駆けて技術は完成していながらも事業の柱にはならなかった。そんな辛酸を舐めた約30年後に巡ってきた絶好のチャンス。CVDダイヤモンドコーティング技術では、絶対に負けるわけにいかない。航空機産業でのシェア拡大に向けて、本格的な開発が始まっていく。

過去に製品化していたものの、もちろん当時の技術のままでは勝負できない。需要が高まるCFRPへの対応で、他社をリードする必要があった。また、航空機の部材がCFRPだけでなく、CFRPにアルミニウムなどが組み合わさった複合素材が多く使用されていたことも、開発を難しくしていた。CFRP単体の加工であればコーティングは硬さのみを追求すればいいが、複合素材にも対応するためにはコーティングに求められる性能は素材ごとに異なる。市場で求められているのは、異なる素材であっても同一の工具で加工できること。その難題を解決するためには、三菱マテリアルの技術力を結集させなければならない。そこで中央研究所と岐阜製作所、明石製作所が合同で開発に取り組むことになり、2016年10月に発足した航空宇宙部の強力な支援のもと“航空機プロジェクト”が、満を持してスタートすることとなった。

SECTION02

航空機プロジェクトを加速させる
千載一遇のチャンス。

航空機プロジェクトとして、まず与えられたミッション。それは、今まで縁のなかった、ある航空機部品加工メーカーから工具を採用してもらうことだった。5社競合で、採用されるのは2社のみ。CFRPへの本格的な対応が遅れていた当社にとっては、狭き門と言っていい。しかし、この勝負に勝たなくては、航空機プロジェクトが失速するのは間違いない。何があっても絶対に勝つ。プロジェクトメンバーは、闘志に燃えていた。
中央研究所に所属している赤星は、製作所で開発されたコーティング膜を解析し、その改良を助言する役目を担っていた。彼が的確に、すばやく解析しなければ、限られた時間で顧客の要望を満たす開発など不可能である。また、研究所でしかできない独自のアプローチから、工具寿命を既存製品比の3倍にするという挑戦も続けていた。解析と開発、両方の側面からCVDダイヤモンドコーティングを進化させ、必ず採用を勝ち取る。彼の覚悟は、並々ならぬものがあった。
一方、明石製作所の石井は、コーティング膜の開発とその生産技術業務を担っていた。特に責任が大きかったのが後者の業務。開発した膜を量産化する段階で、所望スペック内に作りこむことが重要な任務だった。時には目視で、時には顕微鏡で不具合を発見し、その発生原因を中央研究所に解析を依頼しながら探っていく。量産化成功の鍵は、彼が握っていた。

プロジェクトの合同会議は、毎月のように行われていた。そこでお互いの進捗状況を報告し合うことになるのだが、赤星はその会議を重苦しく感じる時期があった。新たな膜の開発が思うように進まないことに加え、依頼された解析も要望のスケジュール通りに進まない。現場の期待に応えたいのに、応えられないジレンマ。しかし、ここで凹んでいるわけにもいかない。赤星は、石井と激しく議論しながら、解析と開発を根気強く進めていった。
一方の石井は、赤星に解析を依頼する立場にあった。その時に、解析の狙いを丁寧に説明しなければならない。なぜこの解析が必要なのか、解析結果からどのような開発の方向性を導き出すのか。背景を理解してもらわないと、満足のいく結果を得ることができないからだ。時間に限りがある中でも十分にコミュニケーションを取って、どれだけ想いを共有できるか。石井は、その調整に腐心していた。
そんな二人の奮闘が、ある時ようやく実りかける。顧客が抱えていた課題に対し、赤星と石井が導き出した解析結果を提示すると、「ここまでやってくれたのはあなた方だけでした。ぜひ御社の切削工具をテストしてみたいと思います。」という連絡が石井の元に届いたのだ。CFRP加工用ダイヤモンドコーティングに関する航空機プロジェクトは、最初のハードルを乗り越えることができたのである。

SECTION03

ダイヤモンドコーティング工具で
シェアNo.1を獲得するために。

2017年12月現在、その航空機メーカーから依頼された工具は量産化に向けた最終テスト段階に入っている。航空機部品加工メーカーが扱う工具は非常に多岐にわたるが、このテストをパスすれば他の工具の採用も検討してもらえるという。当社のダイヤモンドコーティング工具がシェアを広げる大きなチャンスを掴んだのだ。その現状を、二人はどう思っているのだろうか。
赤星は言う。「僕たちはやっとスタート地点に立ったばかりだと思っています。お客様に喜んでもらえたことはもちろん嬉しいですが、将来的に航空機産業でNo.1になるためにはライバル社を圧倒的に凌駕する技術を産み出さなくてはいけない。工具寿命は既存製品の2倍にまで持ってくることはできましたが、やはり3倍を達成しないとダメです。それが、中央研究所としてCVDダイヤモンドコーティング開発に取り組んだ最大の目的ですから。これを達成しないことには、私のミッションは成功したとは言えません」。

対して石井の想い。「まだお客様が求められている性能を完全に満たしているわけではないので、さらなる性能向上に取り組んでいかなければなりません。赤星さんは長寿命化に取り組んでいますが、私は品質改善を重点的に取り組んでいます。それともう一つ。生産技術の管理は、製造の人間でなければできないところ。量産化の際に、規格外製品を減らすための解析・検証は、自分が責任を持ってやらなければと思っています」。
ここまで果たしてきた成果に満足せず、理想のダイヤモンドコーティング開発に向けて貪欲に突き進む二人。本プロジェクトを通じて、固い信頼関係で結ばれたこの二人が、CVDダイヤモンドコーティング開発で世間を驚かせる日は、そう遠くはないかもしれない。

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