10阿部 佐々木さんたちの最大の功績は、作業者の安全を守ったことです。三菱マテリアルグループには安全・コンプライアンス・品質・工程・コストの頭文字から成る標語「SCQDE」があり、私たちは施工時これらを遵守することを肝に銘じています。そして、その中で最重視されているものこそ安全です。 2019年8月の着工以降、壁に直面する度にこれを思い出し、安全を最優先しつつ、それ以外の要素とのバランスを取ることに努めました。関係者の意見に耳を傾け、ともに考え抜いてもなお判断に迷った時は、SCQDEに立ち返り前進してきたのです。佐々木 SCQDEは阿部さんの心の支えであり、迷った時の道標でもあったんですね。私も改めて心に刻みます。阿部 三菱マテリアルは1974年に秋田県で大沼地熱発電所の運転を開始して以来50年以上、地熱発電事業に取り組んできました。その間、綿々と受け継がれてきた地熱発電のノウハウは、当社最大の強みです。またグループの総合力を活かし、調査から操業まで一貫してグループ内で行えることも三菱マテリアルならではの強みです。佐々木 それから地元住民の方々や自治体など地域のステークホルダーと良好な関係を築けている点も大きな強みです。新たな地域で地熱発電開発を行う際、地域の皆様にそうした好事例をお伝えできれば多少なりとも安心していただけますから。阿部 日本政府が2050年カーボンニュートラル実現を目指す中、多くの企業もその実現に向けた行動を求められています。それは当社においても同様です。三菱マテリアルは5年前倒した2045年度をカーボンニュートラル目標年と定め、自社で消費する電力に匹敵する再生可能エネルギー発電を実現することで、実質的な再生可能エネルギー電力自給率100%を目指しています。三菱マテリアルは地熱のみならず、水力、太陽光発電事業も行っていますが、地下部門のリーダーとして、さらに地熱開発を活発化したいと考えています。佐々木 日本は地熱資源量が世界3位ですが、地熱資源に恵まれた場所の多くは国立公園の中や温泉地の近くにあるため、それを十分に活用できていないのが現状ですしね。そこで重要なのが、地域との合意形成です。阿部 地熱発電開発を行う上で、「地域との調和」は欠かせません。地熱発電開発によって地元住民の方々や温泉事業者などが不利益を被ることは、決してあってはなりません。持続可能な開発と安定操業を行うこと、そして地域の皆様にご納得いただけるまで何度でも説明し、真■に向き合うこと。それが私たちの責務です。佐々木 このことは安比地熱発電所の操業管理を担う安比地熱社の一員として、深く心に刻まねばなりません。そのためにも毎年、地熱貯留層のモニタリングを継続していきます。それから地熱発電で得られたエネルギーを活用して、地域の皆様に貢献する道も模索していきたいです。――地熱発電事業における、三菱マテリアルの強みを教えてください。――地域ひいては社会から、三菱マテリアルが期待されていることは何ですか?――お二人の今後の目標は何ですか?佐々木 三菱マテリアルは中経2030において、「地熱発電のさらなる拡大」を掲げています。もちろん地熱発電を拡大していくことは重要ですが、既存の地熱発電所の操業管理も同じくらい大切なので、まずは安比地熱発電所の安定操業に努めます。 また安比地熱発電所ほど大きな発電所を操業する機会はなかなかないので、今回の経験や知見をしっかり吸収し、次の地熱発電開発に活かしていきたいです。阿部 運転を開始したら終わりではなく、高い発電出力を安定させつつ、安全に操業していくことが重要ということですね。地熱発電事業に携わる一人として、佐々木さんの言葉にとても共感しました。 また安比地熱発電所プロジェクトは、調査段階も含めると20年以上前から取り組んできました。つまり、それだけ長い時間をかけて諸先輩方がつないできた血と汗の結晶が、ようやく実を結んだということです。そして次は、私たちが持てる知識や経験、そして気概を次世代につないでいく番です。今後は次世代の育成を通して、地熱発電事業の発展に貢献していきます。地熱発電開発の成否を分けるのは、地域との調和安定操業の先に描く未来
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