15 航空機や自動車などの金属部品の切削加工に不可欠な超硬工具。その原材料である“タングステン”は、航空宇宙やEV市場の成長に伴い、需要が増加しています。しかし、タングステンは埋蔵量が少なく、鉱石からの抽出も容易ではありません。三菱マテリアルグループの日本新金属社は、使用済みの超硬工具をリサイクルする事業によって、原材料となるタングステンの安定供給に貢献しています。 現在、グループの総力を結集して「タングステンリサイクルの新たな製造手法開発とその量産化」に取り組んでいます。 私も2021年から、この新たな製造手法を製造現場に実装するための研究開発に注力しています。私たちはその中で、これまで実現は難しいとされてきた、製造過程で起こる化学反応の速度をコントロールすることに成功しました。それにより、従来よりも効率的にタングステンを製造することが可能になり、量産化までの道筋が見えてきたのです。また、この製造手法を活用すれば、一つの工程でさまざまな製品を作り分けることも可能になります。それにより、お客様ごとの異なるニーズに最適(上)タングステンの量産化研究は44名で進める大規模プロジェクト。メンバーの拠点が離れているため、Web会議による意見交換が欠かせません。(右)同じ試験結果を見てもメンバーの意見はさまざま。研究開発を前進させる■はそれらの意見一つ一つに潜んでいます。せっさくな形で応えていくことを目指していきます。 研究開発では必ずしも望む結果は得られませんが、「原理・原則を大切にする」という当社の研究開発方針で現象を捉えると、それは未知の原理・原則を理解するチャンスであるともいえます。その度に基礎試験に立ち返るのは大変ですが、最適解を見つけた時には大きな達成感が得られます。 「その製造方法は現場に実装できるの?」――これは新人時代の現場実習で製造部門からよく問いかけられた言葉であり、研究員としてのマインドを変えてもらった言葉でもあります。大学時代の基礎研究では、研究成果が社会に実装できるかよりも、未知の現象や法則を明らかにすることが求められていました。そのため、私はこう問いかけられて初めて、私が求められているのは先進的な研究成果だけではなく、製造現場の課題を解決する方法であるということに気付けたのです。つまり、いかに社会的に意義のある研究成果が得られたとしても、製造部門の仲間たちが運用しづらいものでは意味がないということですね。 今でも原理・原則の追求と現場が求めている開発とのギャップに頭を悩ませることがあります。そんな時は「これは現場で運用しやすいか」「そのために原理に無理が生じてはいないか」と、現場に実装することを想定し、その工程を逆算する中で、必要な原理を確認していくこともあります。そうした現場目線と原理・原則の両立により、三菱マテリアルの技術力を前進させるような研究成果を生み出し続けていきたいです。 私は大学時代、有機化合物の合成における人や環境への負荷軽減を研究していたため、環境意識が高い企業で働きたいと考えていました。しかし2019年当時、そんな企業は少数派。だからこそ三菱マテリアルの企業理念は、私の目に新鮮に映ったのです。 現在、私が進めているタングステンの新たな製造手法開発とその量産化研究にも、さまざまな市場の成長を促進し、人々の生活をより豊かにできる可能性が秘められています。しかし、人間が豊かになるだけでは不十分です。持続可能な地球環境の実現のために、私にできることは何だろうか。常に自問自答しながら、三菱マテリアルで研究開発を続けていきます。技術開発の生命線を握るタングステンの新たな製造手法開発とその量産化現場目線の研究開発で製造現場を革新する私たち人間の利益のために地球環境を諦めない
元のページ ../index.html#15