――そのような環境下で、三菱マテリアルの事業はどう映っていますか?夫馬さんの著書からおすすめ!――最後に、社員の皆さんに向けてメッセージをお願いします。11金融市場の遅れが原因となり、2017年に国内最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が「ESG指数」に基づいた株式投資を開始したことで、ようやく世間にも認知されるようになってきました。 ESGは企業が持続的な成長を遂げるために非常に重要な要素です。この視点を経営に取り入れていかなければ、企業は顧客をはじめとするステークホルダーからの支持を失い、事業継続への影響も考えられます。代表的なものとして挙げられるのは石炭火力発電分野です。石炭は以前から温室効果ガスの排出量などの問題から警鐘を鳴らされていたため、今後はますます事業環境は厳しくなるでしょう。同じ理由で、自動車業界も大きな転換期を迎えています。モノづくりの世界は、第5次産業革命と言われているほど、主に環境・社会面で大きく変化を遂げている最中であり、事業の方向性に頭を悩ませている企業はたくさんあります。 皆さんがメインで取り扱っている銅をはじめとした非鉄金属やレアメタルは、電気自動車などの普及に伴い、追い風が吹く分野だと予想されています。ただし、油断は禁物です。なぜならば、同じ銅関連企業同士での競争が激化するからです。ここで重要なのは、銅を取り巻く環境を理解すること。銅がどこでどのように採掘され、どうやって販売されてESGを理解するための導入としてぜひ読んでいただきたい1冊です。幅広い方から「これを読んでESGに対する意識が変わった」という声をたくさんいただきます。他にも今話題のカーボンニュートラルについて記した『超入門カーボンニュートラル』(講談社+α新書)などもおすすめです!いくのか。環境影響、社会影響、コスト、安定調達の全ての面で効率的なサプライチェーンの構築を意識しなければ、競争が激化する銅事業を生き抜くことはできません。 そこで三菱マテリアルに期待するのは、都市鉱山(E-Scrap)からの銅の回収です。銅は今後、需要の伸びに対して供給が追いつかなくなるとも言われており、いかに効率良く回収して、再生できるかということが重要視されます。新しい時代に向けて、銅の回収技術の競争は横一線です。これを制することができれば世界のリーディングカンパニーになることも夢ではありません。 しかし、ただ単に銅をリサイクルすればいいわけではありません。資源の回収や分解、リサイクルなど通常よりコストがかかる再生銅を、ヴァージンカッパーと同じコスト・品質で提供することを大前提として、プラスアルファでどのような付加価値をつけられるのかが、三菱マテリアルが持続的に成長する上で重要になってきます。新しい技術や回収・分別モデルを見出していくことはもちろん、少量の銅で今までと同じ品質の製品を作ったり、よりリサイクルがしやすいシンプルな構造にしたりするなど、消費効率・回収効率を上げるための技術も必要になってくるでしょう。その点では、三菱マテリアルが運用するE-Scrapビジネスの新たなプラットフォーム「MEX」は面白い取り組みだと思います。 このような新しい視点は、今後の製品開発に欠かせないものになっていきます。米国ではすでに、同軸ケーブルから銅を回収する最先端の技術を企業が開発し、事業を開始しています。このように、今まで再生ができなかった、もしくは難しい、コストが莫大にかかると言われている素材にこそ、リサイクルにチャレンジする価値があるのかもしれません。皆さんがそれを実現できたら、とてつもなく大きな武器になります。その際には、三菱マテリアルが長年培ってきた、幅広いリサイクル技術が優位に働くことでしょう。 私から社員の皆さんに伝えたいのは、より視野を広げて物事を捉えてほしいということです。三菱マテリアルには「人と社会と地球のために」という企業理念があります。この言葉を聞くと、ついつい自分自身が社会にどのように貢献しているか、ということだけを考えてしまいがちです。しかし、皆さんがどれだけ正しい行動をしていたとしても、製品を取り巻くサプライヤー自身の社会・環境インパクトを改善できていなかったら自分の仕事に誇りは持てないですよね。自社だけではなく、サプライヤーがどこまで動いているのかしっかりと把握して、一緒に改善していくことが求められています。皆さんにはぜひ、自分たちだけではなく、全てのバリューチェーンを含めて理念が体現できているかということを意識して業務に従事してほしいです。皆さんの取り組みに未来がかかっています。これからの三菱マテリアルの活躍にぜひ、期待したいと思います。「これを読めばESGがわかる!」一冊『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった』(講談社+α新書)激動の時代に輝く三菱マテリアルの可能性「人と社会と地球のために」を全てのサプライヤーに向けて
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