PROJECT STORY04

部材を金属から樹脂へ。
製造ライン立ち上げの
前に立ちはだかった壁。

PROJECT MEMBER

(所属部署・役職、インタビュー内容は当時のものです)

SECTION01

「部材は一新、性能は維持」
車両メーカーから届いた難題。

高機能製品カンパニーの電子デバイス部門では主力製品として、家電や通信機器などのエレクトロニクス製品に使われる温度センサーやサージアブソーバなどの電子部品を幅広く提供する。特に近年、車載用デバイスの領域においては、この製品ラインナップを強化している。その中心となるのが、自動車やオートバイの電子制御や低燃費を実現する各種温度センサー群だ。
世界トップクラスの国産車両メーカーA社では三菱マテリアル製の油温センサーと水温センサーをいち早く採用した。両センサーは、エンジンオイルや冷却水の温度を正確に測定するもので、A社が東南アジア市場で展開する国際戦略車のFIシステム(電子制御燃料噴射装置)にも搭載されている。同システムは、排出ガスのクリーン化と燃費向上の一翼を担い、両センサーはシステムに不可欠な部品の一つとなっている。

2017年2月、この車両メーカーから、新たなプロジェクトに向けた開発のオーダーが届いた。開発の要件は、低コスト化と軽量化のためにセンサー部材を金属から樹脂に変更すること、ただし性能は現状を維持してほしいというものだった。同メーカーは新車開発に向け、経済性と環境性能の向上を実現するための設計変更に着手しており、その重点項目の一つとして、温度センサー部材の改良に白羽の矢を立てたのである。依頼に応えるため、間もなく電子デバイス開発センター内に新プロジェクトが誕生した。同センターは、カンパニーに依頼があった製品の設計開発から工程設計を担当する部署だ。要請があれば、生産技術や製造現場と連携して量産化まで取り組むこともある。
今回の依頼内容は製品の金属部分の樹脂への変更だが、これは新製品開発にあたるレベルのものだ。金属で達成していた性能を樹脂で実現するためには、要求性能を備えた樹脂の選定、樹脂特性を踏まえた製品開発、製品形状を踏まえた新たな取り付け工法の確立などが必要になるからだ。
部材変更に伴い課題は山積していたものの、旧製品の開発で蓄積されていた知識とノウハウが課題を解決する大きな推進力となり、プロジェクトは一つずつ着実に課題をクリアしていく。製品設計が完了した段階で新規メンバーとしてプロジェクトに参加したのが、入社したばかりのY.Tだった。

SECTION02

マレーシア工場で
いざ製造ラインの立ち上げ、
という局面でトラブル発生。

Y.Tが最初に取り組んだのは、決定した設計仕様に基づくサンプルの試作だ。協力会社と連携しつつ特に大きな問題もなく試作を終えると、次に信頼性の試験・評価、センサー検査機の評価を担当し、こちらも順調に進んでいった。その後に待ち構えていたのは、量産を行うマレーシア工場で生産工程を立ち上げるミッションだ。2018年12月、Y.TはプロジェクトリーダーのI.Hと共にマレーシアへ飛んだ。
日本国内では業務が順調に進んだY.Tだったが、マレーシアではいきなりのトラブルでつまずく。日本では正常な動作を確認した検査機が、移設したマレーシア工場ではうまく機能しない。この検査機では画像認識機能を搭載し、形状が類似した油温センサーと水温センサーを正確に識別し、出荷時の製品混入を防ぐことが求められる。ところが、マレーシア工場で検査機を作動させてみたところ、二つを見分けることができなかった。
「そのままの状態では出荷箱に油温センサーと水温センサーが混在するリスクを、完全に払拭できません。仮に誤って出荷した場合、メーカーにも損害が発生します。この窮地をいかに打開すべきか。日本にいるプロジェクトメンバーやマレーシア工場の生産技術スタッフも参加して対策を協議し、考えられる障害の原因を徹底的に洗い出していきました」(Y.T)。

「製品に当てるライトの角度を変えてみよう」「カメラの条件設定を変更してみてはどうか」、洗い出したポイントを一つひとつ検証したが、原因はつかめなかった。Y.TとI.Hは振り出しに戻り、再度ラインを見直してみた。その時だ、I.Hの目に留まったものがあった。製品に付いていた、微細な汚れ。それを取り除いてラインを動かしてみると、検査機は正常に機能した。「これだ!」真の原因が検査機だけでなく、他の工程が影響していた事を究明できたことで、改善のスピードは一気に加速した。Y.Tたちが注目したのは、樹脂を成形加工する金型だ。二人で加工時の製品の表面の状態を詳しく調査した結果、加工工程における連続生産で金型に汚れが蓄積し、この汚れが製品に付着したために検査機が正常に機能しないことを突き止めたのである。すぐさま、汚れの発生を抑制する金型部品の製作を指示。数週間後、改善された金型部品を組み込み、再度検証を行った時、Y.Tの顔に生気が戻ってきた。検査機は無事に設計通りの機能を発揮し、製造ラインは正常に稼働した。「製造された温度センサーをテストしたところ、お客様の要求を全て満たしていることが確認できました」(Y.T)。こうして2019年3月、月産約10万~20万個を達成する製造ラインが完成したのである。

SECTION03

工場から届いた
一葉の写真。

2019年6月13日、Y.Tの目の前に、夢にまで見た光景が広がった。約4ヵ月間、全力を尽くして量産化への道筋を付けたマレーシア工場のセンサー製造ライン。そこで製造された製品群第一号の出荷を祝う出荷式の様子を伝える写真が、送られてきたのだ。送り主は、検査機の不具合解消で一緒に苦労したマレーシア工場のスタッフだった。
「当時を振り返ると、思い出すのは大変だったことばかりです。でも、この写真を見ると一つのことをやり遂げた達成感が蘇ってきて、前向きに頑張ろうというエネルギーがわき起こってきます」(Y.T)。

今回の経験を活かし、Y.Tが次にチャレンジしたいと考えているのは、車載向け高性能温度センサーの開発だ。100年に一度という大変革期を迎えている自動車業界。カーボンニュートラルに代表される環境性能と自動運転に象徴される快適性能の向上に向け、温度センサーに求められる要求レベルも急速に高まっている。Y.Tは、今回のプロジェクトで身に付けた温度センサーの部材や加工・接合・製造方法はもちろん、高機能を実現する回路設計や内部構造にも視野を拡大。センサー関連のさまざまな技術と知識を習得して、技術者としてのレベルアップを目指している。電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池自動車、自動運転車……。こうした次世代自動車の開発に向け、電子デバイス開発センター内では高機能センサー開発への取り組みが、すでに始まっている。Y.Tは日々の業務と並行して、自動車とセンサー関連の最新動向をチェック。いつ声が掛かっても即戦力としてプロジェクトで活躍できるよう、準備を進めている。

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