PROJECT STORY01

リサイクル原料の増処理に対応。
循環型社会に貢献する
製錬技術の進化を目指して。

PROJECT MEMBER

(所属部署・役職、インタビュー内容は当時のものです)

SECTION01

有価金属の循環利用を見据えて
着々と進められてきたR&D。

1917年創業、瀬戸内海の直島に所在する三菱マテリアル直島製錬所。所内の銅電錬工場では、直島製錬所で取り扱う銅精鉱及び各種リサイクル原料(金銀銅滓やシュレッダーダスト、溶融飛灰等)を熔錬し、製造したアノード(銅の電極板)の電解精製を行い、品位99.99%以上の電気銅を年間約24万トン生産している。銅は熱や電気の伝導率などに優れていることから、電線や電子基板等に使用されるなど、人々の暮らしを支える金属として重要な役割を果たしている。
アノードを電解精製する際、電解槽の底に泥状のスライム(銅電解スライム)が堆積するが、その中には、金や銀などの貴金属のほか、一部の銅、ニッケル、並びに太陽電池などに使用されるテルルといった有価金属が含まれている。脱銅浸出工程は、スライムからこれらの有価金属をできるだけ浸出し、銅電錬工場内で回収するための重要な機能を担っている。浸出後のスライムは金銀スライムとして貴金属工場へ送られる。

ところが近年、リサイクル原料増処理に起因するアノード中不純物濃度上昇の影響で、金銀スライムに残留する銅、ニッケル、テルルの割合が増加。特にニッケルは貴重な資源にもかかわらず、金銀スライムが貴金属工場に送られた以降の工程ではほとんど回収することができない。そこで直島製錬所では2019年より、脱銅浸出工程の改善により、スライム中の銅、ニッケル、テルルの浸出率を高めることを目的としたプロジェクトをスタートさせた。「プロジェクトの重要なポイントは、従来使用していたサージタンク方式に代えて、新たにオートクレーブ方式の工程を導入することでした」と語るのは、プロジェクトをリードしたメンバーの一人であるK.T。2017年に入社し、直島製錬所に配属されて最初に任されたのが、このプロジェクトの基礎試験だった。脱銅浸出工程の改善は以前から検討されてきたテーマで、過去のラボスケール試験からサージタンク方式をオートクレーブ方式に変更することの有効性自体は導き出されていた。サージタンク方式は、大気圧下で空気を吹き込みスライムの酸化反応を促進させて金属の浸出を促すもので、一方オートクレーブ方式は、空気の代わりに酸素を使用し、圧力をかけながら浸出するものである。サージタンク方式に代えてオートクレーブ方式を導入することにより、さらにスライムの酸化反応が促進され、短時間で効率良く浸出できるようになるのだ。ラボスケールの試験を引き継ぎ、より詳細な浸出条件を明らかにすることが生産工程の改善を担うK.Tに託されたミッションだった。もともと脱銅浸出工程にもオートクレーブにも知識を持ち合わせていなかったK.Tだが、この時はまだ業務の重要性自体も十分認識できていなかった。
「当時はオートクレーブ導入も未定。プロジェクトも正式発足前だったことから、気負うことなく、先輩のアドバイスや蓄積された資料を参考に、オートクレーブの小型試験機を使用して浸出条件を探っていきました」(K.T)

SECTION02

オートクレーブ導入が着実に進む一方で、
もう一つのプロジェクトのスタートが決定。

オートクレーブの試験において、K.Tはいくつもの壁に直面した。壁の一つは、スライムの成分が均一ではないということだった。銅精鉱やリサイクル原料の種類や成分は常に異なるため、スライムの成分も一定とならない。同じ条件で試験を行っても浸出率が毎回違うのだ。「どんなスライムでも目標をクリアする浸出条件を探し出すのは本当に大変でした」とK.Tは言う。だが解決への糸口になったのは、スライム中のある成分に注目したこと。その成分に注目し、試験を繰り返し行うことで、一つの方向性が見えてきたのだ。その内容から導き出した条件により、銅、ニッケル、テルルの浸出率の目標値を常時クリアすることに成功。この成果により、オートクレーブを正式に導入することが決定し、プロジェクトが本格的に走り出した。

その後、プロジェクトをリードするもう一人の重要なメンバーであるT.Hが加わった。T.Hの役割は、実際の設備を設計し、導入すること。それまで銅電錬工場の担当経験はなく、脱銅浸出工程に関わるのも初めてだったが、「オートクレーブ導入については、基本フローから配置計画までが既に明確になっていたので、その内容を具体化することが私の任務。翌年の正式稼働に向けて着実に駒を進めていけばいいと思っていました」。こう語る一方で苦労を覚悟したのが、同時に進むことが決まったもう一つのプロジェクト。オートクレーブの導入で浸出量が増加することへの対応として、新たなテルル回収設備の立ち上げも決定されたのである。特に、テルル回収設備については、基本計画から施工管理までの業務全体をT.Hが主導していくことになったのだ。
「関連する2つのプロジェクトを同時に動かし、それぞれ必要な内容を確認しながら進めていくために、どのように時間を配分して対応していくか、苦労しました」(T.H)
過酷な状況下で「幸いだった」とT.Hが話すのは、他工場での設備導入の経験があったこと。それまでの設計・施工管理経験から得ていた知識、ノウハウを頼りに、何とか全体の業務進行スケジュールを立てて進めていくことができたのであった。同年、2プロジェクトの詳細設計が決定し、設備導入が順次始まっていった。

SECTION03

不純物の増加など、
リサイクルに対応して進化する現場操業を実現。

2020年、ついにオートクレーブの導入が完了。だがK.Tはこのあと、新たな壁に直面するかもしれない不安を感じていた。大型機を導入した本番環境は、小型試験機を動かしていた環境とは大きく異なるため、「果たして、ラボスケール試験の成果を本番環境で実現することができるのだろうか」と考えていたからだ。しかし実際は、当初想定していた操業条件に対して、わずかな調整を行うことにより、銅、ニッケル、テルルの浸出率の目標値をクリアすることに成功。「この時は本当に嬉しかったし、ほっとした瞬間でもありました」と、笑みを浮かべたK.T。その一方で、オートクレーブの正常稼働に必要な運転管理項目の一つを現場と共有できておらず、稼働初期に設備トラブルを発生させてしまうという失態も経験した。「絶対に伝えなければいけないと理解していただけに落ち込みましたが、業務を漏れなく実施することの大切さを再確認でき、よい教訓になりました」と、当時を振り返った。
こうしてプロジェクトはメインとなる取り組みをクリアしたものの、K.TとT.Hには次の関門が迫っていた。テルル回収設備の導入だ。大変だったのは、工場の操業を止めずに設備を導入しなければならなかったこと。「設備導入場所を確保するに当たり、既存設備の移設が必要となり、移設・切替作業が多く発生しました。巨大な機械装置の工場内への搬入計画も必要となりますし、配管等の切替時には既設の操業を一時的に止めることも必要になります。安全を最優先に、現場の担当者と操業状況などを確認し、相談や調整をして生産に影響が出ないようにしながら工事を滞りなく進めていくのには本当に苦労しました。達成できたのは、現場の方の協力があったからこそだと感じています」(T.H)。こうして残りの設備導入も完了し、設備が無事稼働することが確認できた時はやっと安心できたと、T.Hは当時を振り返る。「もしも予想通りの能力が出なかったら、我々の努力と苦労は意味のないものになってしまいます。その不安を乗り越え、未来に向かって操業できる環境を実現できたことに、大きな達成感を感じました」と、さらに当時の想いを語った。

今後に向けてK.Tが見据えているのは、銅電錬工場のメインである銅電解工程への取り組みだ。直島製錬所が担っている最大の使命は、原料の不純物濃度が上昇しても、高品位の電気銅を安定的に生産し続けることだ。そこで、「今回学んだ不純物対応の知識とノウハウを活かし、使用するアノードと電解精製した電気銅の関係を明確なデータで捉え、分析することで、銅電解工程での設備強化や操業条件の見直しなどに取り組みたいと考えています」とK.Tは語る。
T.Hは今回のプロジェクトで、担当業務の役割を再確認。「操業と直結しているのが保全動力課の仕事です。設備導入時は、時間が限られていたとしても言い訳にせず、可能な限り条件の確認を行い、操業に貢献するものを確実に実現していきたいです」と、今後の抱負を口にした。この強い責任感こそが、プロジェクトを成功へ導く強力なエネルギー源なのだ。

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