超高強度コンクリート用セメント技術

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超高強度コンクリート用セメント技術

近年、首都圏では住宅の都心回帰傾向を反映したマンションの高層化や、街の再開発で高層ビルが林立し、めまぐるしく都市景観が変わっています。
居住・就業人口の急増に合わせて求められる、都市の高密度化、さらなる建物の高層化と快適な居住・就業空間の実現に欠かせないのが超高強度コンクリート用セメントです。その開発にはどんなストーリーが秘められているのでしょうか?
写真左より:黒岩、中山、木村

石灰石、ケイ石、粘土、鉄を混合し、1,450℃以上の高温で焼成し、石こうと混合して粉砕した灰色の粉末が一般的なセメントです。このセメントに水や骨材(こつざい=砂利や砂などを指す)を加え、練り合わせることによって、建築物、道路、橋、ダムなどの材料=コンクリートとして利用されています。
また、近年セメント工場では、社会から排出される廃棄物を、天然資源を代替する原燃料として積極的に受け入れており、いわゆる都市資源を再利用する技術を確立、設備を強化しています。それによって、セメントの製造は、製品の供給のみならず、持続可能な循環型社会への貢献も果たしています。

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超高強度コンクリート用セメントがないと建てられない建物がある

──コンクリートが「柔らかい」という印象を持っている人はいないと思いますが、そのなかでも超高強度コンクリート用セメントが求められるのはなぜですか?

中山 代表的な例として「建物の高層化」ということにつきるでしょう。「利便性の良い土地で暮らしたい、働きたい」といったニーズが高まれば、その土地の有効利用において、建物の高層化は最も有力な解のひとつでしょう。
建物が高層化すると、必然的に建物自体の重量が増しますので構造の強化は必須です。これが、超高強度コンクリート用セメントが求められる理由のひとつです。

──なるほど。セメントの強度を高めるにはどういった方法があるのでしょうか?

中山 一般的には生コンクリートを製造する際に、セメントの量に対して混ぜる水の量を減らせば強度が高まる傾向はありますね。ただ、当然限度はあり、水が少なすぎると練り混ぜることが困難になりますし、流動性が低いと施工性が著しく落ちてしまいます。ここで言う施工は「打ち込み」というのですが、枠にコンクリートを流し込む作業を想像してください。例えば粘土を狭くて四角い箱の隅々まで行き渡らせることは難しいですよね。

──超高強度コンクリート用セメントはそのようなニーズにも応えられるのですね?

中山 はい。我々は「シリカフュームセメント」という超高強度コンクリート用セメントを開発しました。これはSiO2を主成分とする「シリカフューム」という物質を添加し、高い流動性と強度を実現しています。また、シリカフュームセメントよりさらに少ない水の量で錬り混ぜできる超高強度用セメントの技術も確立しています。

中山中山

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キーマテリアルであるシリカフュームの選別ノウハウの確立

──そもそもシリカフュームとは?

木村 シリカフュームとは、フェロシリコン(FeSi=製鋼用脱酸剤等で使われる)等を製造する際の副産物なんです。
タバコの煙ぐらいの非常に微細な球状の粒子なのですが、粒子間の充填や、粒子間でボールベアリングのような効果をもたらし流動性を高め、またポゾラン反応、ここでは水酸化カルシウムと反応して粒子間の結合力を高める効果をもたらします。

球状の粒子がシリカフューム、角ばっている粒子がセメント球状の粒子がシリカフューム、角ばっている粒子がセメント

黒岩 私たちはシリカフュームを輸入しており、その製品にも規格があるのですが、私たちの用途においてはその規格以上の選別精度が必要でした。輸入先のみならず、ロットによっても混ぜたときの効果が異なるので、当時は建設現場で簡単に使うことができない、なかなかのくせ者だったのです。
それにもめげず研究を繰り返し、因果関係を明らかにし、選別のノウハウを確立できたことで製品化、量産化の道筋ができ、今に至ります。

黒岩黒岩

中山 シリカフュームを混入することで強度や流動性が向上すること自体は公知の事実であったので、建設現場で普通のセメントにシリカフュームを混ぜるなど、色々トライされた事例はありました。
ただ、シリカフューム自体が非常に微細であるため、ただ混ぜるだけではセメント粒子の周辺に均一に分散させることが困難でした。さらに、シリカフュームは軽量であるため、建設現場で混ぜる量を正確に計量すること自体が困難で、一般の生コン工場では製造できなかったのです。このため、特殊な専用プラントで練り混ぜたりしていました。当然、流通させることが困難でもあったのです。

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高性能なセメントを扱いやすく

通常のセメント

通常のセメント(セメントに対する水の重量比20%)

シリカフュームセメント

シリカフュームセメント(セメントに対する水の重量比12%。より少ない水分にも関わらず、施工に適した流動性を示す)

──それでも製品化にチャレンジされたのはなぜですか?

中山 まずはお客さまからのニーズの高まりです。建設現場での施工時の扱いにくさを解消すべく「なんとか川上であるセメント工場で安定した品質で、かつ扱いやすい製品にできないか?」という声が寄せられました。これをきっかけに、大手のゼネコンのお客さまと共同で開発に取組みました。
明かせないポイントなので省略しますが、やはり製造のプロセスにカギがあります。ベースとなるセメントの選択や、セメントの粒子の周辺にシリカフュームを均一に分散させることが重要でした。

黒岩 それを実現したことで、施工時に苦労することなく、超高強度コンクリート用セメントのパフォーマンスを100%発揮できる製品に仕上げることができ、お客様のニーズに応えられるようになりました。流通においても通常のセメントのルートが使えるようになったことも大きな普及のポイントだと思います。

中山 このシリカフュームセメントを用いた超高強度コンクリートは、高い技術力を持っている当社直系の生コン会社の差別化技術にもなっています。

──どのようなお客さまが超高強度コンクリート用セメントを求めるのでしょうか?

中山 日本でも指折りの高層マンション/ビルを建設する大手ゼネコンのお客さまですね。
低層のビルと違って上からコンクリートを打ち込むことが現実的ではありません。比較的新しい施工方法なのですが、CFT構造と言って、中空の鋼管を用いて地上から高層階まで一気にコンクリートを圧入する工法があります。この工法は流動性の高いシリカフュームセメントでないと施工ができないのです。
超高強度コンクリート用セメントとは言いますが、完成時の強度のみならず、施工の自由度の高さも重要なんですね。

黒岩 強度と施工の自由度が高まると、例えば建物の中に柱の少ない広々とした空間を作れるなど、快適な居住性や利便性が求められる構造を実現できるんです。こういった特性は、特に高層マンションの材料として高く評価されています。

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建設現場の負荷低減など、今後のニーズにも対応

──今後の応用事例として、どのようなことをご検討中ですか?

黒岩 建設現場では人材の確保にご苦労されていると聞きます。そのような社会情勢においては、施工の省力化・合理化が進むはずです。プレキャストコンクリート(構造体として成形済みのコンクリート)向けの超高強度セメントや、その周辺技術を検討中です。
幸い三菱マテリアルグループには㈱ピーエス三菱というプレキャストコンクリート等の製造や利用に長けるゼネコンもあることから、コラボレーションも進めています。

木村 プレキャストコンクリートは工場で熱を加えて製造する行程があります。私は加熱したときにどういう反応、物性が発現するのかメカニズムの解明に努めています。
特に諸先輩の方々の知見、国内外の知見を寄せ集めて検証を怠らないように心がけています。

黒岩 将来を予測しつつ、地道な実験で成果を積み重ねるのが大切だと思っています。当社はシリカフュームセメントだけでなく、様々なセメント製品を製造・販売していますが、何れも社会の根底から基盤を支える、手抜きのできない製品ですので、信頼を裏切ることのないようにしないといけませんね。

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人命、社会、地球環境の維持に役立つ製品を開発

──更なる展望をお聞かせ願います?

木村 コンクリートの長寿命化技術の開発にもチャレンジしたいですね。コンクリートが発明されてから、いまだひび割れの問題は解決されていません。ひび割れの要因は様々ですが、当社独自のひび割れ抑制技術を確立し、ひび割れのないコンクリートを実現できれば、100年、200年といった長寿命化が期待できます。

木村木村

黒岩 環境負荷低減は重要なテーマです。産業廃棄物の再資源化や、銅製錬の副産物である銅スラグの有効活用はさらにレベルアップを図らなければならないでしょう。今までは土木分野での利用にとどまっていましたが、近年、当社の直島製錬所の独身寮や、九州工場の事務棟は銅スラグをコンクリートの骨材として使ったプレキャストコンクリートを用いました。いい技術だということに満足せず、このような建築分野での利用も広め、将来につなげたいです。

中山 日本は地震大国です。2011年の東日本大震災や、比較的地震の少ないと思われていた九州地方での2016年の熊本地震など、皆さんの記憶にも新しいと思います。ポジティブで明快な付加価値の創造だけでなく、長期的なビジョンを持って、人命、社会、地球環境の維持に役立つ製品を開発していきたいです。高強度という側面だけでなく、高耐久という側面に関するノウハウもきっと将来役立つと信じています。

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